狐の婿入り 第1話

午後の昼食時間になるとコーヒーを飲むのが僕の日課になっている。昼食時間も終わり、人の流れと客層が少し変わってくる。人間観察というか、これくらいの時間帯になると長居していても少々のことでは煙たがれることもない。店の外の人の流れを年季の入ったレストランと書かれた食堂の窓から眺めている。その人通りの中に、見慣れた人の顔があった「!!」。

 

 得意先相手と目があって「どうも」と会釈されてしまった。そんなことはいつものことだったが、いつもとちがうことがひとつだけあった。彼の首に白い狐が巻きついているのだ、今、僕がどんな顔をしているだろうか。その狐と目があわないように、「見えてません」「見えてません」そんな顔になっているのだろうか、狐に観察されているようで、顔が引きつる。

 

 後日の話、得意先の男性は老舗メーカーの社長に気に入られて婿養子となった。結婚式に呼ばれて出席した際には、もっと顔が引きつったが、幸せそうな顔、良い式だった。

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